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胃癌

胃癌の現状

現在胃癌は減っていると聞かれているかもしれませんが日本では男女合わせると3番目に多い癌であり、男性で3番目、女性で4番目に多く罹る癌であり、死亡者数男性で3位、女性で4位に位置しています(図1,2)。 確かに罹患率(発生率)、死亡率(死亡数の割合)は年々減っていますが、決して侮ることのできない癌です

 胃癌とピロリ―菌

胃癌は皆さんお聞きになったことのあるピロリ―菌が胃に巣食うこと(ピロリ―菌感染)と密接な関係がある疾患です。ピロリ―菌(ヘリコバクター・ピロリ―:図3)は1979年にオーストラリアの二人の学者により発見され(2人は2005年にノーベル賞受賞)、その後の研究で胃・十二指腸潰瘍、胃癌の発生に密接に関係していることが証明されました。昔先進国の中で何故日本だけに胃癌が多いのかわからなかったのですがピロリ―菌の研究からその理由が明らかにされました。日本を含む東南アジアは昔からピロリ―菌が生息する風土だったのです。胃に巣食ったピロリ―菌は胃粘膜に障害を起こし萎縮性胃炎という状態をつくり破壊と修復を繰り返しながら癌が発生しやすい状態を引き起こすのです(図4)。ピロリ―菌の感染は出産後からだいたい5歳以下の幼少時に経口的に生じると考えられています大人で感染することはありません)。年齢別感染率は 10~20代 10%以下 30代 20%以下 40代 30%以下 50代 40~50%以下60代 50~60%以下 70代 70~80%以下 が目安であり年齢と共に上昇していますが、水道設備の普及の前に幼少時を過ごしたか後に過ごしたかが感染率に影響を与えていると推測されます。水道は塩素消毒によりピロリ―菌やコロナウイルスなどの病原体が生きることは出来ないのです

 ピロリ―菌感染による萎縮性胃炎と胃癌の関係

厚生労働省の研究班が行った16年間のピロリ―菌と胃癌の追跡調査ではピロリ―菌未感染者が胃癌になる確立を1とするとピロリ―菌感染者は5倍胃癌になりやすく、ピロリ―菌感染既往者(以前はピロリー菌が胃内に生息していたが胃炎が進みピロリー菌がもはや生息できなくなった状態:萎縮性胃炎が完成してしまった状態)は10倍胃癌になりやすいとの結果でした(図5)。16年間の追跡ですから一生のスパンだともっと差は広がると考えられます。2019年における胃癌の年齢階層別罹患率をみてもピロリー菌感染者の多い50才前後から増加し男性の方が女性に比べて多いですが共に80代にピークとなっています(図6)。つまり胃癌は間違いなくピロリ―菌感染の病気であり全体的発生数は減少しているもののピロリ―菌既往者の多い高齢者ではまだまだ多い病気なのです。今後日本におけるピロリ―菌感染者数の減少は明らかであり胃癌は徐々に減って行くと考えられます(図7)。

 ピロリ―菌除菌

ここで皆さんが耳にしたことのあるピロリ―菌除菌(薬物投与によりピロリー菌を亡くす方法)についてお話しします。ピロリ―菌による萎縮性胃炎の進行と胃癌発生の相関が明らかなわけですから萎縮性胃炎が進行しない内に(ピロリー菌による障害が強くならない内に)ピロリ―菌を亡くせば胃癌の発生率を減らせるわけです。2008年の浅香先生らの報告ではピロリ―菌除菌は胃癌発生に対する予防効果があり50才までに除菌すると胃癌をほぼ100%予防でき、70才以上でも男性で45%、女性で73%の予防可能とのことです(図8)。限られた症例数のデータですので100%は言い過ぎかもしれません一度除菌に成功すると再感染は起こりませんピロリ―菌除菌は胃癌予防の鍵なのです。

ピロリ―菌の検査と共に重要な胃カメラ検査

すでにお分かりの方がおられると思いますが胃癌を考えるならピロリ―菌感染の現時点での有無と共にどの程度の萎縮性胃炎があるかの両方を把握しなければならないわけです。萎縮性胃炎があればたとえピロリ―菌検査陰性でもピロリ―菌感染既往者となり胃癌発生リスクは高いからです。ピロリ―菌感染のチェックには色々な検査がありますが最も精度の高いのは呼気による尿素呼気試験と便による便中抗原検査であり当院では尿素呼気試験を採用しています。尿素の錠剤の内服前後で呼気を採取する方法で約20分で終了します。どの程度の萎縮性胃炎があるかどうかの判断は胃カメラ検査でしか行えません胃の粘膜表面の観察精度の低い胃のバリウム検査(胃透視)では不可能なのです。

胃癌のステージによる治癒率

予防の次に胃癌になってしまった場合のお話をします。

すべての癌はなってしまった場合、現状では早期発見・早期治療に尽きます。

私は内視鏡医ですので内視鏡で100%完治できる胃癌についてお話します。消化管は内側から三層構造になっており粘膜層、粘膜下層、筋層から成り立ちます。消化管の癌(食道・大腸も含め)は最も内側の粘膜層の表面から発生します。胃腸の癌が別名上皮性悪性腫瘍と言われる所以です。外側の粘膜下層・筋層から発生するものは癌ではありません。癌は粘膜の表面に発生しますが進んでゆくと粘膜下層、筋層と縦方向に浸潤して行き二層目の粘膜下層に入り込むと豊富に存在する(全身とつながる)血管やリンパ管に入り血液、リンパ液を介して全身に散らばって行きます(図9,10)。

これを転移と呼びます。粘膜下層に癌が浸潤すると必ず転移が起こるわけではありませんが癌の縦方向への浸潤度合いが強ければ強いほど転移は起こりやすくなります。消化管の癌に対する最上の医療は転移のない段階で癌を発見し摘出することになります(早期発見・早期治療!!)。胃癌が粘膜層のみに存在し転移のない状態(ステージ0)で発見され病変部位を完全に切除出来れば5年生存率はほぼ100%であり、これこそ胃癌に対する現時点での最上の医療になります(図11)。この①②を可能にするのが胃カメラ(上部内視鏡)なのです。

 ステージ0の胃癌

ステージ0の胃癌についてもう少し詳しくお話しします。胃癌は大腸癌のように前段階のポリープから発生するものではなく胃の表面から前段階なしに発生しますDe Novo発生)。ちなみに大腸癌は前段階のポリープ(腺腫)から発生する腺腫-癌相関であり胃癌に比べ少し時間の余裕があります(図12)。胃癌には分化型腺癌未分化型腺癌があり簡単に言うと分化型腺癌は性質が良く未分化型腺癌は性質の悪い(悪性度が高い:転移しやすい)癌です(図13)。ステージ0に相当する胃癌粘膜層(胃壁の一層目)にのみ存在し潰瘍のない分化型腺癌大きさ30mm以内で粘膜層にのみ存在し潰瘍のある分化型腺癌、大きさ20mm以内で粘膜層にのみ存在し潰瘍のない未分化型腺癌になります(図14)。ややこしい話になりましたがまず粘膜層にのみ存在するかどうかステージ0の肝であり、潰瘍のない分化型腺癌であれば大きさは制限なく、潰瘍のある分化型腺癌であれば30mmまで、潰瘍のない未分化腺癌であれば20mmまでは転移がないことになります。ステージ0の胃癌の内視鏡診断では分化型か未分化型か粘膜層のみに限局するかどうか、潰瘍があるかないかの鑑別が最も重要なのです。分化型、未分化型の鑑別はある程度胃癌の形態観察から可能ですが確実な診断は組織生検(癌の一部を生検鉗子で切除)を行い病理学的に確定します。粘膜層のみに限局するかどうか、潰瘍があるかないかは熟練の内視鏡医が胃カメラで視ればわかります。つまりステージ0の胃癌の診断は胃透視では不可能であり胃カメラによる一連の診療でのみ可能なのです

胃癌の内視鏡治療

次にステージ0の胃癌を最も身体に負担なく完全に切除する内視鏡治療についてお話しします。約30年前(1995年~)から消化管の粘膜層内にある病変を完全に切除できる粘膜下層剥離術(ESD:Endoscopic Submucosal dissection)が本邦で開発され全国に普及しており、そして世界に普及しつつあります。この方法はまず病変の周囲を二層目の粘膜下層の深さで切開し、その切開線に沿って二層目の深さで病変のある一層目と二層目を一塊に剥がしてしまう(剥離する)方法です(図15)。癌がある一層目と粘膜下層の二層目が一塊として一括切除できるため得られた切除標本の病理学的検索で癌が一層目にあるかどうか、二層目に浸潤していないかどうかなどが正確に診断出来るのです。つまり胃癌が内視鏡的に完治(100%治癒)出来たかどうかの判断が可能になるのです。ESD後の患者様の胃壁には一、二層目がなくなり三層目の筋肉層がむき出しになった潰瘍ができますが約1か月ほどで瘢痕治癒します。ESDが開発される以前はたとえステージ0の胃癌であっても胃が何分の一かになってしまう外科的治療しか選択肢がありませんでしたが、現在のESDで治療できた場合、胃はそのままの状態であり術後の人生のQOLは全く違うものになりますESDは消化管の初期の癌に対する革命的手術方法であり最初に述べましたように胃癌を最も身体に負担なく完全に切除する内視鏡治療なのです

ステージ0で胃癌を視つけるには?視つけてもらうには?

 粘膜層内のみに限局する癌は粘膜表面にほんのわずかな変化しか示さない事が多く、色調変化、表面の凹凸不整などを直感的に認知する能力が内視鏡医には求められます。また胃壁にわずかな変化しか生じていないステージ0の胃癌はほとんどの場合無症状であり他の原因に起因する症状で胃カメラを受けたり、健診(検診)目的で胃カメラを受けたときにみつかります。何が言いたいかと言えば胃透視(バリウム検査)では決してステージ0の胃癌はみつからないということです。胃透視は胃壁の表面にバリウムを乗せ、その溜まり具合で診断する方法ですので粘膜表面にわずかな変化しかないステージ0の胃癌の発見には不向きです。また胃癌の発生母地として重要な萎縮性胃炎の診断も正確に行うことはできません。なぜ今でも胃透視が行われているのか?その理由は厚生労働省の胃癌検診ガイドラインが胃カメラと共に胃透視を推奨しているからです(なぜなのかは敢えてここでは申しません)。私を含め内視鏡の専門医が自分の胃癌検診をするために胃透視を受けることはまずありません。私自身約40年の消化器内視鏡専門医としての歴史の中で胃透視を受けたのは20代に1回のみで、それは当時胃カメラと共に胃透視を患者様に行っていたため経験として受けただけでした。お話しましたように胃癌発生にはピロリ―菌感染の有無と萎縮性胃炎の進行度合いが強く関係しています。胃癌の罹患率が上がる起点の40歳になったら、あるいはなる前に必ず一度ピロリ―菌検査と胃カメラを受けましょう(図6)。ピロリ―菌陽性の場合必ず除菌してください。そしてステージ0の胃癌を視つけてもらうためにはあなたがピロリ―菌感染者の場合(仮に除菌後であっても)その後可能であれば毎年胃カメラを受けてください。60歳以上のピロリ―菌感染既往者の場合毎年の胃カメラは必須です胃癌は進行が早い場合があり胃癌リスクをお持ちの場合ステージ0で視つけるためには1年に一度の検査がお勧めなのです。鎮静剤を使用する胃カメラは今常識ですが経験のある専門医にかかればただ眠っている間にまったく苦痛なく終了します。当院で経験した95才の早期胃癌(粘膜内癌)ESD切除完治例を図16~20に提示します。現在99才でお元気です。

最後に

現在世界の消化器内視鏡(胃カメラ、大腸カメラ・・・)の90%以上のシェアは日本のメーカー(OLYMPUS,FUJIFILM,HOYA)が占めています。そして手前味噌ですが日本の消化器内視鏡は世界一です。先進国の中で唯一昔から胃癌が非常に多かったことが寄与しています。臨床の医療は患者様がたくさんいるからこそ発展するのです(胃透視も二重造影法と言われ30年前までは日本から発展し世界に普及した検査法でしたが現在は発展した内視鏡と比較すると被曝するだけで残念ながら過去の遺物としか言えないのです)

胃癌の予防にはピロリ―菌除菌が有効です。大人になったら将来の胃癌を考えピロリ―菌の検査を受けましょう

そして40歳になったら(40歳前でも)無症状であっても勇気を出してまず一度胃カメラを受けましょう近くに熟練の内視鏡医が必ずおられると思います。日本では世界最高の消化器内視鏡検査が受けられるのですから。

 

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