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内視鏡の鎮静について

[2023.09.10]
 先日の大腸内視鏡(CF)の患者様、検査前に1-2年前に人生初めてのCFを受けられた某病院のお話をされた。その病院ではCF前に鎮静剤を使うかどうか尋ねられた。説明を聞いてもどちらにすべきか判断できなかったため鎮静剤なしを選ばれた。検査はこの上なく苦痛が強く二度と受けたくないと感じられた。
今回信頼する先生に勧められ私の検査を受けられた。長い腸であり少し挿入は難しかった。上行結腸に大きさ1cm大の扁平ポリープがあり切除した。この病変は前回見落とされていた可能性が高い。
覚醒した後、今回の検査は寝ているだけで全く苦痛なくCFの経験のないご主人にも是非勧めると仰っていた。
内視鏡検査を初めて受ける患者様の気持ちに思いを馳せると鎮静剤を使うかどうかの判断を本人に委ねるのはいかがなものかと思う。経験のないものについて判断できるわけがない。受け持つ内視鏡医が苦痛なく出来るやり方にしっかり誘導して差し上げるべきだと思う。
今から約40年前、研修医が終わり神戸大学附属病院の消化器内科の医員として内視鏡診療に没頭していた頃アメリカからCFのパイオニアである新谷弘美先生が来日され講演・ライヴデモをされていた。
鎮静をしない内視鏡が日本では主流であった当時、眠っている間に見事な技術で全く苦痛のない内視鏡を見たことは私に衝撃を与えた。’これだ!‘と思った。さっそく内視鏡前投薬の文献を読みあさりその当時の上司に鎮静剤使用を申し出た。論争は苦手な私だがこの時は相当激しく上司に私の気持ちをぶつけた。結論は’今までやってないことをなぜやらないといけない‘のだった。大学病院勤務は2年で終わり関連病院に左遷になった。
関連病院は甲状腺診療で有名な病院だったが内視鏡はほぼゼロの状態で自由にやりたいことが出来た。左遷と言ったがひょっとしたら上司はそういう環境を私に与えてくれたのかもしれないと今は思う。
それ以後鎮静剤を使用する内視鏡診療を追求し様々な鎮静剤にトライし今に至っている。学会で内視鏡鎮静についての講演もやらせていただいた。
今まで何回も受けた自分自身の経験でも鎮静剤を使用しない内視鏡は考えられない。つまり鎮静剤なしでは受けたくない。内視鏡は消化管の表面を観察し病変を見つけ診断・治療するもの。患者様がすやすや眠っていただいておれば内視鏡医はじっくり視ることに集中できる。責任を持ってしっかり内視鏡診療を行うためには鎮静剤使用は必須であるが私の信条だ。
アメリカ、南米、ヨ-ロッパでも鎮静剤なしは経験したことがない。約20年前フランスでCFした時は全身麻酔だった。さすがにやり過ぎと思い質問したが答えは麻酔医救済のため?!だった。医療の理想の追求はつねに医療の経済との闘いだと実感した。
鎮静剤を使用しなければ患者様は検査後すぐに帰宅できやっている医療側としては沢山検査ができ、また鎮静剤使用により保険点数を減点されることもなく、極めて効率がよい。しかしそのような近視眼的なやり方がたくさんの患者様に内視鏡など二度と受けたくないという印象を植え付け結果的に内視鏡の本来の役目(早期発見・早期治療、そして予防)を損なっているのではないか。目先の利益の追求が大切なものを失う典型的な例ではないのか。
質の高い内視鏡診療を苦痛なしに受けたいならば少なくとも十分な説明なしに患者様自身に鎮静剤使用の有無を委ねるような施設はやめられた方が良い。納得できるまで鎮静剤使用の有無について説明してくれる(そしてそれに誘導してくれる)内視鏡医をお選びください。
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